大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和62年(行コ)68号 判決

新潟県長岡市今朝白二丁目五番一号

控訴人

東亜木材株式会社

右代表者代表取締役

小島義雄

右訴訟代理人弁護士

塩津務

新潟県長岡市南町三丁目九番一号

被控訴人

長岡政務署長

木村稔

右指定代理人

林菜つみ

安達繁

渡辺康雄

小笠原浩一

右当事者間の法人税更正処分取消等請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が昭和五六年七月七日付でした、控訴人の昭和五三年八月一日から昭和五四年七月三一日まで事業年度の法人税の更正のうち、所得金額七三四七万四五一一円、納付すべき税額三二六六万〇九〇〇円を超える部分、及び過少申告加算税賦課決定(但し、裁決による変更後のもの)、いずれもこれを取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次に付加する外、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(但し、原判決九枚目裏二行目の「減額便正」を「減額更正」に改める)。

(控訴代理人の陳述)

一  本件更正処分は、控訴人の昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期における欠損金を無視した違法なものであるから、取り消されるべきである。

1  控訴人は、昭和五四年暮頃には昭和四九年及び昭和五〇年における会計の実態を究明しえたので、被控訴人に対しその旨を報告した。したがつて、被控訴人としては、昭和五四年暮以降昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期について、減額更正をなしうる状態にあつたのである。また少なくとも、昭和五五年九月二〇日には、昭和五〇年七月期の減額更正が可能な状態にあつたのである。しかるに、被控訴人はこの減額更正をなすべき義務を怠つたのであるから、この点において違法である。

2  本件更正処分は、控訴人が担税力を有しないにも拘わらず、課税することになるので、違法である。即ち、納税者が実体的に納税義務を有しない場合には、国は最大限にこれを是正し、実体的な納税義務内容に近づける義務があるというべきである。本件においては、昭和四九年七月期及び五〇年七月期について、国税通則法に定める除斥期間を停止させたうえ、既に明白になつている欠損金を更正し、昭和五四年七月期の所得金額から差し引くことが、現行憲法下における国税通則法の正当な解釈と運用であるというべきである。

二  本件賦課処分は、次の理由により違法である。

即ち、控訴人は現行法上いかなる手段方法によつても、昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期における欠損金について、自ら修正することはもとより、減額更正の請求をすることもできなかつた。しかも、被控訴人は、控訴人の欠損金額を認めながら、更正の期間制限を理由に、繰越欠損金としては認知しなかつた。その結果、本件課税所得が生じたのである。したがつて、本件税額の過少申告は、納税者の意思とは無関係に、不可避的結果的、かつ形式的に生じたものであつて、不当な理由に基づく過少申告とはいえないものである。

三  仮に、昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期における欠損金を、昭和五四年七月期の所得の金額の計算上損金の額に算入しえないとすれば、右事業年度の所得金額及び法人税額の計算が、被控訴人の主張のとおりであることは認める。

(被控訴代理人の陳述)

一  右一、二の主張は、争う。

二  被控訴人は当初、過少申告加算税の基礎となる税額として金六六五七万五〇〇〇円、これに対する過少申告加算税金三三二万八七〇〇円、重加算税の基礎となる税額として金一三七万円、これに対する重加算税金一万一〇〇〇円として更正をしたが、審査請求を受けた国税不服審判所長が重加算税を課するのは相当でなく、重加算税の基礎となる税額も過少申告加算税の基礎となる税額として計算すべきものとした結果、裁決においては、過少申告加算税の基礎となる税額として金六七九四万五〇〇〇円、これに対する過少申告加算税金三三九万七二〇〇万円、重加算税は零円となつたものである。

(証拠関係)

本件記録中の原審及び当審における書証目録並びに原審における証人等目録の記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

一  当裁判所も控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、失当としてこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次に訂正・付加する外、原判決の理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  原判決一一枚目裏八行目の「各証言」の次に「、並びに弁論の全趣旨」を加え、同一二行目の「の減額」を「の各欠損金を生じたとする減額」に改める。

2  原判決一三枚目表五行目冒頭から同一〇行目末尾までを次のとおり改める。

「しかしながら、過去の事業年度における欠損金を、繰越欠損金として当該控除年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入するためには、その過去の事業年度において所得の金額の計算上欠損金が認められる場合でなければならない。しかるに、本件においては、昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期の欠損金については、法定の申告期限から五年を経過しているため、国税通則法七〇条二項により減額更正をすることができず、その結果、昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期においては、いずれも欠損金は生じなかつたことに確定したのであるから、仮に右各事業年度において、控訴人の主張するような欠損金が生じていたとしても、これを当該控除年度の所得の計算上損金の額に算入することはできない。右と異なる控訴人の主張は、独自の見解であつて、採用することができない。」

3  原判決一四枚目表九行目の「資産整理の内訳」を「資産整理益の内訳」に改め、同一五枚目表二行目の「かかることを」の次に「口頭で」を加え、同七行目の「安藤」を「丸山」に、同裏一行目の「細い」を「細かい」にそれぞれ改める。

4  原判決一六枚目表九行目と一〇行目の間に、行を変えて次のとおり加える。

「五 控訴人は昭和五四年暮以降または昭和五五年九月二〇日には、被控訴人に減額更正をすべき義務が発生した旨主張する。

しかしながら、昭和五四年暮においても昭和四九年七月期について、もはや減額更正をすることができないことは、国税通則法七〇条二項により明らかなところである。また、前記認定の事実によると、控訴人の過年度についての経理の調査は、専門家の税理士が調査に当たつても、膨大な書類のため容易に結論がでない状態であつたところ、昭和五四年暮には、控訴人は被控訴人に対し概略の数字を口頭で報告したにすぎず、昭和五五年九月二〇日には、具体的な数字を示し、細かい説明をしたとはいえ、この時には昭和五〇年七月期について減額更正をなしうる期限は、僅か一〇日しか残されていなかつたのであるから、その期限内に自ら調査をしたうえ右事業年度について減額更正をすべき義務が被控訴人に発生したとは、到底解することができない。したがつて、控訴人の右主張は、採用することができない。

次に控訴人は、本件更正処分は担税力がないところに課税することになるから違法である旨主張する。

しかしながら、控訴人の担税力は、控訴人の資産である土地建物を売却し、その譲渡益を得たことにより十分認められるのである。控訴人の主張は、要するに、青色申告の承認を受けていることから生ずる特典である、繰越欠損金の控除が受けられないことを、論難しているにすぎない。したがつて、控訴人の右主張も、採用することができない。

六 控訴人は、本件税額の過少申告は控訴人の意思と無関係に生じたから、本件賦課処分は違法である旨主張する。

しかしながら、前記認定事実を総合して判断すると、控訴人が昭和五四年七月期の確定申告をするに当たり、法人税額を過少に申告したことについては、少なくとも過失があつたものと認められ、正当な理由があつたものということはできない。したがつて、控訴人の右主張も、また採用することができない。

七 そして、昭和四九年七月期及び昭和五〇年七月期の欠損金を、昭和五四年七月期の所得の金額の計算上損金の額に算入しえないとした場合に、右事業年度の所得金額及び税額の計算が被控訴人主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。」

5  原判決一六枚目表一〇行目冒頭の「五」及び、同裏二行目の「右一」から同三行目の「照らして」までをいずれも削る。

二 そうすると、右と同旨の原判決は相当である。

よつて、本件控訴を失当として棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 枇杷田file_2.jpg5d助 裁判官 喜多村治雄 裁判官 小林亘)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例